今回の登録型派遣の基本的禁止事項を含む今回の改正案は、社会の実情を無視した机上の空論、或いは、日本国内並びに世界の派遣労働の実態を全く勉強していないか、または今のみの政局を考えての一時的な日本国内メディア向けの人気取り行動なのか、どう見てもこれから与党を目指すという政党には見識の極めて低いものとしか言いようがない。
私自身、1984年に同業界に就職したが、当時はまだ派遣事業そのものが社会的認知をされていない状態であった。しかしながら、その事業の社会的有用性は十分にあったと確信している。
特に当時の人材派遣事業では、女性の社会進出を妨げている社会的常識や、一般社会からの無理解、そして不十分な各種制度に対して、働き方の多様性を創造し、就労の機会を大幅に増やしてきた。
例えば女性の場合、当時では20才代での結婚が圧倒的に多く、会社でも「寿退社」を進める風潮が普通であった。出産後や育児から解放された20才代後半から30才代の女性にとって転職・再就職等の社会復帰では、本人の持っていた経験やスキルを活かせる機会が少なく、スーパーのレジうちや、事務職でも単純作業などで我慢するしかなかった。企業側もそのような境遇ある女性を正社員として採用することもなく、或いは出来ず、その一方で女性達も正社員になるには時間的な制約は多く、むしろ、望まないケースが圧倒的であった。
人材派遣業はその様な社会的背景をもとに、企業と働く側の要望やその時代に拡大しつつあった就労形態の多様性、そして就労者側の生活ニーズに適合していたために大きな市場の成長へと発展していった。1980年代後半には誠に大きな制約があったにせよ労働者派遣法が成立した。
なお、現在の派遣会社では上場企業も含めて、女性の経営者・役員が大変に多く登用されている数少ない産業へと成長もしている。日本では女性の社会進出が世界の平均値よりも低く、先進国では最低である。また、政治における女性の進出も最低レベルであるとの新聞記事もあった。
私は二度の欧州駐在に加え、米国駐在(ニューヨーク)を経験し、現在では独自に全米20カ所の拠点を持つ人材会社を経営している。この両先進国地域の知識と経験から下記のことが言える。
米国の雇用法・労働法では就業上での様々な「雇用差別禁止」に関する厳しい法規が存在するが、適用対象業務や、人材紹介と人材派遣に関してのそれそれに対しての事業運営や職業選択を限定するような厳しい法的規制は見あたらない。アメリカでは「(雇用)機会の平等」が大原則である。このために、待遇や福利厚生の点では格差があることも認めるが、むしろ、企業と就労者共に長期雇用関係以外にもお互いに相互の利益に適合した雇用形態があることを進めているし、現在でも新しい雇用形態が、インターネットの発展と共に日々生まれている。専門就労者の派遣(弁護士、医者、会計士、システムエンジニアなど)では派遣制度が大いに活用されている。現在では正社員以上のベネフィットや、雇用訴訟保険EPLI(=Employment Practice Liability Insurance)や企業や専門家を守る損害保険PLI(=Professional Liability Insurance)なども完備し、利用する企業と就労者の相互が安心してサービスを利用できるようになっている。
これに対してヨーロッパでは「(雇用)保障の平等」がむしろ中心であり、「同一労働、同一賃金」制度などはオランでは多く浸透している。このため、今回の様な経済危機的状態でもオランダではこの人材派遣システムが有効に機能し、ワークシェリングや、労働時間短縮でも最低限の雇用保障で平等性を保っている。
これに対して、日本の労働法は明治時代に導入したプロイセン(現在のドイツ)のものを基本モデルとしている。これに対して第二次世界大戦以後のアメリカから導入された人材派遣システムは米国労働法・雇用法のあり方を基本にしている。この2種類の相容れない法体系の中にあって、日本の派遣事業はどのような将来像を以て進めていきたいのかが全く不明瞭である。欧米いずれの地域においても「登録型派遣」は世界の常識である。これはそれまでの固定的な雇用関係をより、多様化した形態に発展させていった時代の流れである。
今回の野党三党が、提案予定の労働者派遣方改正案で登録型派遣の禁止項目は、この世界の潮流を全く無視し、派遣会社のみならず、そこで就労する何十万人もの社員と派遣スタッフの生活を脅かし、失業者数を急増させ、その結果として社会保険給付額を増大させ税金をますます使う事になるのは明白である。
つまり、どのグループに属している者・団体もその利益を得ることができない。
現在のように、低レベルな政局をにらんだ単なる人気取りのための行動であるならば、厳しく自らを戒めて、真にそれぞれの利用者の声に耳を傾けることである。
言うまでもないが一部の違法な、そして非人道的なビジネスを繰り返す、人材会社・組織は厚生労働省が厳しい罰則規定を策定し、取り締まるべきは当然である。それが派遣労働者の人間としての権利を守ることになる。しかし、これは個別単位に取り締まっていくべき事であり、法改正をするようなどと言う暴言は決してあってはならない。
平和ボケの中で無意味な(むしろ有害)な法案提出は今の「日本らしい」現象であるかも知れない。我々は「世界のガラパゴス国家」と言われ始めている実態を認識すべきである。
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